2015年、中国の通貨人民元(RMB)の話

世界第2位の
経済大国中国の通貨である

「人民元」

人民元は
かつて中国本土内(オンショア)の
取引にしか使うことができなかったが、
2004年に香港の居住者向けに人民元業務が
解禁されて中国本土外での人民元保有が始まった。

当時日本企業の
海外駐在員として 香港居住者だった僕は
このときのことを よく憶えている。

香港勤務は家族を
上海に残しての単身赴任だったので、
定期的に上海での生活費を渡す必要があった。

それまでは上海に戻るたびに香港ドルを
手持ちで運び中国国内で人民元に両替をしていた。

それが2004年頃に
HSBC香港口座内で香港ドルから
人民元への両替ができるようになり、
さらにそれを中国国内に送金できるようになった。

しかもすべての操作が
インターネットバンキング上で
完結するということで
上海への人民元の生活費の送金が
画期的に便利になったのである。

両替の限度額は1日につきRMB20,000。

手元の香港ドルを毎日
せっせと人民元に替えたものだ。

当時のレートは確か
RMB1=HKD0.9ぐらいだったので、
HKD18,000ドルを毎日RMB20,000に
両替していたのである。

その後、
人民元は香港ドルに対して
次第に切り上がっていった。

現在の人民元:香港ドルのレートは
RMB1=HKD1.24なのでRMB20,000は
香港ドルでHKD24,800ということになる。

隔世の感がある。

それはさておき。

その後2009年7月の
クロスボーダー人民元決済の解禁により
香港などで人民元建てのサービスが急拡大した。

この中国本土外(オフショア)で
取引されるようになった人民元は
本土にあるような為替や資本取引に関する
規制外で取引が可能であると同時に
中国本土(オフショア)で取引される
人民元とは違った性質を持つ通貨になってしまった。

中国本土内で流通している人民元は
オンショア人民元(CNY)と呼ばれ、
中国本土外で流通している人民元は
オフショア人民元(CNH)と呼ばれている。

オンショア人民元(CNY)と
オフショア人民元(CNH)は
まったく同じ紙幣・貨幣を用いていながら
為替水準も金利も違うという通貨として
非常に特異な状態にある。

オンショア人民元の取引は
貨物貿易取引に必要なだけしか取引できない一方で
オフショア人民元は貨物貿易取引のほか、
サービスの対価、出資や親子ローンなど
資本取引にも使われる。

オンショア人民元規制当局の
中国人民銀行国家外貨管理局は
毎日為替の基準値を発表しており、
オンショア人民元の為替レートの変動幅は
その基準値から上下2%以内に制限されいる。

オフショア人民元の
規制当局は香港金融管理局であり、
上記のような為替規制を敷いていないので
基本的に為替レートに変動制限ははない(※)

※中国本土で規制の変更があった場合に影響を受ける可能性はある

また、オンショア人民元の
取引に参加できるのは
認可を受けた中国本土居住者のみであり、
オフショア人民元を取引できるのは
香港居住者、非居住者及び
一部の中国本土居住者となっている。

本来中国国内だけで流通し、
中国の中央銀行である中国人民銀行及び
中国政府の完全な管理下にあった人民元から
海外で自由に取引される
オフショア人民元が生まれた背景には
人民元を国際通貨にしたいという
中国政府の思惑があるのは間違いがないだろう。

だが13億人という
国家史上最大の人口を抱え、
兆を超える資産を持つ富裕層がいる一方で
1人あたりのGDPがUSD1,000以下という
行政区も存在する極端な貧富の差のある中国で
いきなり自国通貨を自由化するのは混乱が大きい。

だから段階を踏んで、
まずは中国本土外で自由取引のできる
オフショア人民元を作ったのではないだろうか。

人民元が
国際通貨であるためには
まず国外において一定の流通性が
あるべきなのは当然だろう。

人民元建ての債権や
その他の金融商品の取引に
海外の機関投資家や個人が参加できたり、
国際取引の場での人民元決済もある
程度普及していなければならない。

一般論として
一国の通貨が国際通貨になるためには
まず貿易などの決済通貨となり、それから投資用通貨、
そして他国の外貨準備に使われる準備通貨と
段階を踏まなければならないようである。

現時点では
ベトナム、ラオス、ミャンマーの
中国と国境を接している地帯では
貿易やサービスの決済通貨として
人民元は地位を確立している。

2014年11月に
それまで中国本土人しか
取引のできなかったA株(人民元決済)の
本土と香港との相互取引が可能になり、
外国人もアクセスができるようになったのは
人民元が投資用通貨として大きく前進した、
と言ってもよいだろう。

だが先日のように
上海株式市場の暴落を止めるために
中国政府は強権を用いて
大手株主の株式売却を禁じたり、
企業の判断による株式取引の
大規模な停止があったりしたことは
投資用通貨としての人民元の信用を
大きく損なったはずである。

準備通貨になるためには
もっと大規模な人民元の開放と同時に
国際基準に合ったフェアな金融商品の取引の場を
用意することが必要になる。

中国は人民元の
IMF(国際通貨基金)のSDRの価値を
算出するためのバスケット通貨入りを目指している。

「SDR(Special Drawing Rights)」

はIMF加盟国が出資額に
応じて割り当てられる準備資産で
加盟国は急激な資本流出などで
外貨が足りなくなる事態に見舞われた場合、
別の加盟国にSDRを渡すことで
その国から外貨の供給が受けられるものである。

いわば仮想通貨の一種であるが、
SDRの交換レートは現在米ドル(USD)、
欧ユーロ(EUR)、英ポンド(GBP)、
日本円(JPY)という世界の主要通貨を
加重平均する標準バスケット方式で算出している。

そのバスケット通貨の
見直しは5年ごとでおこなわれており、
今年2015年はその見直しの年に当たる。

他の通貨の顔ぶれを見ても、
SDRのバスケット通貨に入ることは
世界の主要通貨としての地位を
獲得したことになるといっても過言ではないが、
これも先に述べた国家ぐるみの
株価対策に批判的なIMFがどう評価するのか。

注目に価する動向だといえる。

海外資産運用メールマガジン【国境なき投資戦略】

投資家として、そしてFA(ファイナンシャルアドバイザー)として海外で20年間生き抜いてきた玉利将彦が独特の視点から語る海外投資の極意

お名前(姓)
お名前(名)
Eメール

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

海外資産運用メールマガジン【国境なき投資戦略】

投資家として、そしてFA(ファイナンシャルアドバイザー)として海外で20年間生き抜いてきた玉利将彦が独特の視点から語る海外投資の極意

お名前(姓)
お名前(名)
Eメール