ハゲタカファンドの狩猟

「ハゲタカファンド」

と呼ばれるファンドがある。

危機に陥った企業の
株式や債権を安値で大量に仕入れ、
その会社の経営権を握って
さまざまな方法で大きな利益を
狙うファンドである。

具体的にどんな手法で
それを実現しているのだろう?

社債の一種に

「MSCB(Moving Strike Convertible Bond)」

というものがある。

日本語に訳すと

「転換価格修正条項付転換社債」

という具合になる。

おそらく
耳慣れない単語ではないかと思う。

順番に説明する。

社債は企業が
発行する借金証書であり、
メジャーなものには以下の3種類がある。

1.普通社債
2.ワラント債
3.転換社債

普通社債は文字通り
普通の借金証書(有価証券)である。

企業は普通社債を
購入した投資家に利息を支払い、
期限が来たらそれを償還する(元本を返却する)

ワラント債は社債部分の他に、
その社債の発行元の会社の株式を
予め決められた価格で買い取る権利(ワラント)が
付いている社債である。

転換社債は英語名を

「Convertible Bond(CB)」

といい、
社債を一定価額(転換価格)で
株式に転換することができるものである。

ワラント債や転換社債は
株価が一定以上を超えると
キャピタルゲインを得ることができるので
投資家にとっては普通社債よりも
エキサイティングな投資商品である。

だが、
ワラント債や転換社債は
株価が一定以上に達すると
発行株数が増える可能性がある。

そうなると
一株当たりの配当が減ったり、
のちに株価が下がったりしやすいので
発行企業や既存の株主には
デメリットの多い商品である。

なぜそんな不利な社債を発行するのか?

簡単に言えば、
普通社債ではなかなか
引き受けてもらうことが
難しいからである。

特に業績の
芳しくない企業の社債は
あまり魅力がないから、
ワラントや転換社債のような
楽しみをつけて投資家を
惹きつけるのである。

さて冒頭のMSCB。

末尾にCBがついているのを
見てもわかるように
転換社債の一種である。

普通の転換社債と違うのは
社債を株式に転換するときの
転換価格が状況によって
変わるというところである。

一部の企業は
通常の転換社債を発行しても
資金を調達できないことがある。

業績や市場の評価が低過ぎて
転換価格が株価を上回りそうにないので、
投資家は興味を持たないのである。

ところが株価が
低迷するのに合わせて
転換価格も下がるのであれば
キャピタルゲインを得られる
チャンスが増えるので
関心を持ってもらうことができる。

つまり投資妙味のある
転換社債でも資金調達の難しい、
しかしそれでも資金を集めて
起死回生を狙いたいと思っている、
そんな上場企業がMSCBに手を出すのである。

上空から獲物を見ていた
ハゲタカはそこに舞い降りる。

多額の資金で
MSCBを買い漁るのである。

例えば10億円の資金を
集めたファンドがMSCBを買う。

転換価格が1,000円の場合は
それに届けば100万株に転換できる。

株価が下がって
転換価格が500円になった。

その価格に届けば
200万株手にできる。

堂々たる大株主である。

更に下がって転換価格が
200円になったら、
500万株取得することができる。

もし転換できたら筆頭株主だ。

そこで
下がり続けていた株価は
なぜか少し上がって転換価格に届いてしまう。

ファンドは会社の経営権を握った。

そして役員を多数送り込み
大規模なリストラによる再建計画を実行する。

業界のしがらみや
社内の人間関係など
一切関知しないファンドが
冷徹にコストカットをしたおかげで
会社の業績は急回復する。

株価も1,000円台に戻った。

ファンドは持ち株を
市場で上手に売り抜き、

50億円を鷲掴みにして
悠々と飛び去るのである。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

MSCB発行以降株価が下がり、
それに合わせて転換価格が下がり、
ファンドが筆頭株主として経営権を手にできる
レベルに達したところでなぜか
株価が反転して転換価格を超えた。。

偶然だろうか?

もちろんそんなことはない。

MSCBを入手すると同時に
ファンドと協力関係にある仕手筋などが
株式市場でカラ売りをして、
その企業の株価を下げるのである。

ファンドが経営権を
握れる株数に達したところで、
少し買い戻して転換価格まで
株価を上昇させるのだ。

このような
MSCBを使った企業買収の手法は
2007年2月に、

上場株式10%超の
株式への転換を禁止する、

1日平均出来高の25%を超える
証券会社による市場売却などの禁止する、

などの
業界ルールが整備されて、
実質的に実行不可能となった。

だが、常に新しい手法は開発され、
ハゲタカは再びそこに群がる。

藤原塾、藤原ヘッジファンドでは
基本的にこうしたハゲタカ的やり方を
用いてファンド組成をすることはないらしい。

だが、その手法は余すところなく学ぶ。

知っていてあえてやらないのと、
知らなくてできないのとでは雲泥の差があるのだ。

【藤原塾】金融工学のビジネススクールのお申し込み
http://www.borderless-investment.com/fujiwara.html

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