「さっき、
◯◯さんからどちらを選ぶか決めろ、
と迫られちゃいました。。」
2010年の10月頃、
真田孔明から電話がかかってきた。
こちらにしてみればとうとう来たか、
というだけの感じだった。
多くの会社で副業をすることは
社内規定によって禁じられている。
我々の古巣の会社もご多分に漏れずだ。
彼の副業が会社の
上層部にバレてしまったのだ。
上層部に、というところがミソである。
80,000人ぐらいいた
彼のメールマガジンの読者の中には
実は本社で勤務している同僚もいた。
名前こそ出しては
いないもののメルマガの内容から
「もしかしたら広州に駐在しているあの人では。。?」
と気づく者もいて、
彼の副業を知っている人は数年前から
社内でも何人かはいたのである。
だが、その人たちは会社勤務の傍ら、
自分のビジネスも成功に導いている彼に対して
尊敬の念を抱いているくらいでむしろ好意的だったのだ。
だが、それが社内の多くの人に広がると話は別である。
「ルールを破ったとんでもない奴だ!」
というネガティブな意見を
持つ人間もいたりして問題になった。
そうするとガバナンスの関係から
経営陣も黙っているわけにはいかない。
彼は本社の取締役も務める
アジア地区のグループ会社を統括する
香港法人のトップに呼び出されて詰問された、
という流れである。
「会社をやめるか、副業をやめるか、どちらかを選びなさい」
というのが上層部の趣旨だった。
「会社を辞めさせていただきます」
と、即答する彼のことを
取締役は意外そうに見つめ返したという。
まさかそっちの答えが
返ってくるとは思っていなかった
というように。
「で、どれくらい稼いでいたんだ? その副業では」
背中を背もたれにつけたまま取締役は訊いた。
「はあ、1億円ぐらいです」
数秒間の沈黙のあと、
「。。会社をやめるか、副業をやめるか、どちらかを選びなさい」
と取締役は繰り返した。
2回目のときの声は小さく、
背中は背もたれから離れて
前のめりになっていたそうである。