「CRS=Common Reporting Standard(共通報告基準)」
は2017年から
100以上の国・地域で導入される
海外居住者(非居住者)の
口座情報の報告基準である。
口座保有者の氏名、
住所、納税者番号、口座残高、
利子・配当等の年間受取総額等の情報がそれに当たり、
当該国の金融機関はその国に居住していない外国人の
それらの情報を一定の様式に沿って管理し、
定期的にその国の税務当局に報告する。
報告された情報は
各国の税務当局の間で
自動的に交換されることになる。
租税を徴収して
それで様々な行政サービスを
提供するのが国家の大きな役割だ。
その徴税方法は
大きく分けて2種類ある。
ひとつは
その国の国籍を持っている人から
税金を徴収する
「属人主義」
もうひとつは
その国に居住している人から
税金を徴収する
「属地主義」
属人主義を
採用している国の代表は
アメリカである。
米国人は世界の
どこに住んでいても
本国に納税することになっている。
この属人主義の税制を
採っている国はごくわずかで
世界の国家のほとんどは
属地主義を採用している。
日本も属地主義である。
属地主義の国民が
海外に居住していたら本国ではなく
居住国に納税することになる。
日本人が中国に
住んで勤務している場合、
その日本人は中国政府に
所得税を納めることになる。
同じく属地主義である
中国の国民が日本で働いて収入を得ている場合、
その中国人は日本政府に納税することになるのだ。
ところがその際
多くの国の税務当局が
頭を痛めているものに
自国民が海外に開設した
銀行や証券口座の存在がある。
経済のグローバル化や
国際金融の自由化の流れの中で
資産分散によるリスクヘッジと
より有利な運用先を求めて
海外に口座を開設することが増えた。
それ自体はまったく問題はない。
だが
属人主義であるアメリカはもとより、
属地主義の国でも本国に居住していれば
その国民から徴税しなければならない。
そこに大きな負荷がかかるのである。
例えば
日本に住んでいる日本人が
海外にある銀行口座で利息収入を得たり、
株式の取引でキャピタルゲインを得た場合は
その20%を徴税する必要があるが
海外にある口座からは源泉徴収をすることはできないので
その人に確定申告をしてもらわなければならない。
その申告が正確に
行われているかどうかを
確認することは容易ではなかった。
租税条約を
締結している国家間では
従来よりこうした情報を交換をすることが
できるようになっていたが
一人一人の情報の照会を相手政府に求めて
回答を待つというのが
非効率この上ないことは想像に難くない。
このような問題の解決に
最初に動いたのは属人主義のアメリカで、
2010年に
「FATCA(外国口座税務コンプライアンス法)」
を制定し、
国外の金融機関に対して
米国市民及び米国居住者等が
保有する口座を特定し
その口座情報を米国内国歳入庁(IRS)を
報告を求めるという措置を採った。
別の国の管轄化にある
金融機関に強制することはできないはずだが
アメリカはその求めに応じない金融機関に対して
米国投資から受け取る利子・配当及び投資の売却額に対し
30%の源泉徴収するなど米国内での営業活動に圧力を加える
という半ば脅迫的な措置で強引にこれを推し進めている。
これが米国人が海外の
金融機関から敬遠される原因となった。
同様の対策として
属地主義の諸国が協調して
作り上げたかたちがCRSである。
属地主義の国同士が
お互いの国民がそれぞれの国に
開設した情報を共有するのは
利害が一致するのでやぶさかではないだろう。
さらに共有する項目を統一すれば
オンラインで情報を検索する際にも便利である。
CRSの適用を始める国は
2017年と2018年に分かれており、
それぞれ以下の通りとなっている。
[2017年度のCRS適用国(2016年分以降の情報を報告)]
アングィラ、アルゼンチン、バルバドス、バミューダ諸島、
ベルギー、英領ヴァージン諸島、ブルガリア、ケイマン諸島、
コロンビア、クロアチア、キュラソー島、キプロス、チェコ、
デンマーク、ドミニカ、エストニア、フェロー諸島、
フィンランド、フランス、ドイツ、ジブラルタル、ギリシャ、
グリーンランド、ガーンジー、ハンガリー、アイスランド、
インド、アイルランド、マン島、イタリア、ジャージー島、
韓国、ラトビア、リヒテンシュタイン、リトアニア、ルクセンブルグ、
マルタ、メキシコ、モンセラト島、オランダ、ニウエ、ノルウェー、
ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、サンマリノ、セイシェル、
スロバキア共和国、スロヴェニア、南アフリカ、スペイン、
スウェーデン、トリニダード・トバゴ、タークス・カイコス諸島、英国の55の国・地域
[2018年度のCRS適用国(2017年分以降の情報を報告)]
アルバニア、アンドラ、アンチグアバーブーダ、アルーバ、
オーストラリア、オーストリア、バハマ、バーレーン、ベリーズ、
ブラジル、ブルネイ・ダルサラーム、カナダ、チリ、中国、クック諸島、
コスタリカ、ガーナ、グレナダ、香港、インドネシア、イスラエル、
日本、クウェート、レバノン、マーシャル諸島、マカオ、マレーシア、
モーリシャス、モナコ、ナウル、ニュージーランド、パナマ、カタール、
ロシア、セントキッツ・ネイビス連邦、サモア、セントルシア、
セントヴィンセント・グレナディーン、サウジアラビア、シンガポール、
シント・マールテン、スイス、トルコ、アラブ首長国連邦、
ウルグアイ、バヌアツの46の国・地域
この流れの中で我々日本人はどうすれば良いか?
まずは居住国以外で
現金化した実現利益を
正しく把握することである。
そしてそれを確定申告する流れになる。
手続きの方法がわからなかったり、
疑問がある場合はそれぞれの居住地の
税理士にアドバイスを求めて欲しい。
その助言をできるのは
有資格の専門家だけだ。
CRS(共通報告基準)の内容と
それに対する対処方法を詳しく知りたい場合は
以下の動画セミナーを見てみると良いだろう。
「2017年からの新税務管理対策セミナー」
https://academy-global-investment.com/form/039_tax/?id=bw
私も購入して鑑賞したが、
なぜCRSというシステムが構築されるに
至ったかという経緯からその具体的な内容、
そして専門家のインタヴューと
非常にわかりやすくまとめられている。
各国間の協調で
こうしたシステムができることは
我々庶民にとってプライバシー面で
不快であることは偽らざる気持ちだろう。
だったらいっそのこと
海外への資産分散などやめた方が良い
と考える向きもあるかもしれない。
だが、果たしてそれで良いのだろうか?
2016年は英国がEUを離脱したり、
米大統領選挙で過激な発言を繰り返していた
ドナルド・トランプ氏が当選するなど
多くの人にとって予想外だったことが現実となった。
今年の後半には円安も進み、
株式市場も活況を取り戻していてる日本だが
一方で少子高齢化問題や天変地異の多い国土に
原発がひしめいているなどの状況は依然として同じだ。
今後も日本が世界が
どのように変化してゆくか予測が難しい。
自分と家族を守る資産を
一ヶ所に集めておくことに対する
リスクは少しも変わっていない。
ルールを的確に把握し、
遵守しながら自分の価値観を堅持して
生き抜くことが何より重要なのである。
「2017年からの新税務管理対策セミナー」